MAIN STORY / EP-P28 / 中学終盤〜高校初期 / 9 MIN READ

空き教室は空いていません

高校期コンフィとトリネの最初の対戦から、四人の次回予定が成立するまでトリネ・シキ・コンフィ・アオイ

放課後の昇降口で、コンフィはトリネの鞄からミラモンカードの箱を見つける。「やる人いたんだ」。帰るはずだった二人は、空き教室へ引き返す。

ILLUSTRATION LOADING昇降口で同じミラモンカードのケースを見つけるコンフィとトリネ

「それ、ミラモン?」

放課後の昇降口で、コンフィは片足を上履きに残したまま、トリネの鞄を指した。口から覗いている四角いケースには、家にある箱と同じマークがついていた。

中学も終わろうという頃になって、初めて見つけた。

「そうだけど」

「やる人いたんだ」

「こっちの台詞」

コンフィは履いたばかりの靴を脱いだ。トリネも下駄箱を閉めずに待っている。どこの教室が空いているかは、コンフィが知っていた。

二人で机を挟み、箱を開く。トリネはコンフィの札を一枚ずつ横へずらしていった。

「虫、多くない?」

「魚もいる」

「強いのは?」

「好きなのはこっち」

コンフィは魚に似た札を取り返し、大きな顎の甲虫をその上へ並べた。二枚とも見えるように、角を少しずらす。

「強さを聞いたんだけど」

「一回やれば分かるって」

一回やっても分からなかった。甲虫が山札の底にいたからだった。

トリネがその札を指す。

「それ出るまで、もう一回」

「明日じゃだめ?」

「明日も持ってくるの?」

コンフィが答える前に、トリネは机へ広げていた自分の札を集め始めた。帰る方ではない集め方だったので、コンフィも箱を閉めるのをやめた。

二回目も、甲虫は出なかった。

帰り際にもう一度「明日も」と聞かれ、コンフィはうなずいた。出なかった札は、家で抜かずにおくことにした。

*

ILLUSTRATION LOADINGシキが三つの星律札戦デッキを二人の前へ置く

高校へ上がると、シキが三つのデッキケースを、あの空き教室の机へ置いた。

コンフィとは中学から同じ生物部だった。鉢の様子を見ていると、隣から魚や虫の話が始まる。最近はその話にトリネの名前も混じり、シキも何度かここへ顔を出していた。

今日は見に来ただけではない。ミラモンを広げていた二人の間へ、星律札戦の箱を寄せる。別のカードゲームだが、やってみればきっと分かる。一番上には、シキが始めるきっかけになった、蔓と花をまとった札を入れてあった。

「布教用が三つある」

トリネが数えると、コンフィが自分とトリネを交互に指した。

「私たち、やるって言ったっけ」

「今から聞く。やる?」

シキは一つ目の箱を開けた。コンフィは水辺の生き物に似た札を、トリネはその隣の、いちばん文字が多い札を手に取った。

「これ、最初から出せる?」

「それはまだ。先にこっちを出して、何回か進めてから」

「じゃあ、そこまでやる」

説明は三人で札を並べながら進んだ。コンフィは途中で、場にある札へ別の一枚を重ねた。

「それ、ミラモンの置き方」

「あー、そっか。今、こっちだった」

慌てて一枚を引き抜いた拍子に、下の札までついてきた。トリネが指で押さえてやる。トリネの手札には、最初に選んだ文字の多い札がずっと残っていた。

シキが勝つと、トリネはそれを表にして机へ置いた。

「出せなかった」

「もうちょっとだったね」

説明書を閉じかけたシキの指に、トリネの指が重なった。

「出せるところまでって言った」

コンフィは自分の札を混ぜながら笑った。こうなることだけは、別のゲームでも知っていた。

*

ILLUSTRATION LOADING放課後の教室で眠っているアオイをシキが見つける

数日後、シキが忘れたノートを取りに教室へ戻ると、アオイが一人で寝ていた。

ほかの生徒の鞄はなく、椅子も机の下へ戻されている。窓際だけまだ明るい。そこへ頬を向け、両腕を重ねて、なかなか帰りそうになかった。

シキが机を二度叩くと、アオイは片目を開けた。

「帰らないの?」

「……今、何時?」

時刻を聞いてから、ゆっくり教室を見回す。

「取り残された」

「寝てたからね」

シキは自分の机からノートを取り、鞄へ差し込んだ。口を閉じる前に、アオイが中のケースを指した。

「それ何。さっきまでやってたの?」

「カードゲーム。やる?」

「起こして最初にそれ?」

「今なら一組貸せる」

アオイは目元をこすってから、隣の椅子を引いた。シキも鞄を置き直す。ノートは、ひとまず回収できた。

*

ILLUSTRATION LOADINGアオイが説明の途中で最初の札を出す

アオイは配られた札を持ち上げ、表と裏を見た。

シキが最初の手順を説明している間に、使えそうな一枚を前へ出しておく。シキがそこまで説明を進めると、すぐ指を置いた。

「これ、出していい?」

「うん。あ、そっちか」

シキの手札が少し下がった。

「違った?」

「合ってる。私がちょっと困る」

「じゃあ、これでいい」

アオイは札から手を離し、頬杖も外した。

分からないところは、そのたびに聞けばよかった。今出した札は次にも使える。向かいのシキが一枚伏せたのは気になる。眠る前より、机の上に見るものが増えていた。

一回終わると、アオイは自分で山札を混ぜ始めた。

「もう起きたから」

シキが時計を見る前に、二回目の札が配られた。

帰る時には、借りた箱もアオイの鞄へ入っていた。

「次、持ってくるね」

「返してね」

「うん。持ってくる」

*

ILLUSTRATION LOADING空き教室の机へ四つのデッキと次回予定が揃う

次の放課後、コンフィとトリネがいつもの空き教室で待っていると、シキがアオイを連れてきた。

「アオイ。昨日、教室で寝てた」

「紹介、そこから?」

トリネが顔を上げる。アオイは借りたケースを机へ置いた。

「起きた後に二回やった」

コンフィが引いてくれた椅子へ座り、そのまま自分の前で蓋を開ける。

「それ、一回やってから返すね」

シキはうなずいて、自分の分を出した。

「ミラモンより人数増えるの早いなあ」

コンフィが言うと、トリネはアオイの箱を見た。

「寝てる人にも勧めるから」

「起きてから勧めた」

「ぎりぎり」

アオイが札を切り始めたので、シキもそれ以上は言わなかった。

初めは四人とも中央へ肘を寄せていた。対戦が始まると少しずつ広がり、途中で机をもう二つ足した。トリネは今度こそ出せた札を、隣のコンフィにも見せた。コンフィは見ているうちに、自分の番を忘れた。

帰る前、シキが黒板の端へ次に集まる曜日を書いた。

「部室みたい」

アオイが言う。部ではないけれど、次もここが空いていれば使うつもりだった。

トリネは四つのケースを見て、小さく数え直した。

「相手、三人になった」

自分の箱をしまい、一番に立ち上がる。

「明日、どっち持ってくる?」

コンフィとシキが、別々の箱を持ち上げた。

了