平日の夜、トリネは床へ三つの浅い箱を並べた。
「残す」「出す」「保留」。使わなくなった紙のカードを分けるために、前から用意していた箱だった。その周りにも古いケースや輪ゴムで留めた束があり、いちばん大きくなっているのは「保留」だった。
《やること溜まってきたから、作業通話募集》
送ってからカメラを床へ向けると、最初に入ったシキが箱を読んだ。
「今日はどこまで?」
「『出す』を一箱分」
「保留へ移すのは、終わった数に入れないよ」
トリネは伸ばしかけた手を止めた。今持っている束は、あとでまとめて見るつもりだった。
「まだ何もしてないのに対策された」
水音と一緒にコンフィが入ってきた。
「もう始まってる? こっちは皿一枚洗った」
「一枚でも進んでてえらい。私は今止まった」
最後にアオイの参加音が鳴った。画面を見ているらしく、少ししてから聞く。
「何するの」
「各自、作業。アオイは話し相手でもいいよ」
「じゃあ、それやる」
アオイのところからは、何かを始める音も、片付ける音もしなかった。
*

トリネは「出す」の箱から、角の白くなったデッキケースを引き上げた。
「これも入れてたんだ」
蓋を開けると、一組そのまま残っていた。アオイが画面へ顔を寄せる。
「それ、前使ってたやつ?」
「そう。まだ混ぜた順番のまま」
「四人で紙やったの、最後いつだっけ」
コンフィの水音が止まった。
トリネも札を見たまま考えた。今週はもう一度オンラインで遊んでいる。それより前にも通話した。机へ四人分の札を並べた日だけ、すぐには出てこなかった。
「それは残しといてもいいんじゃない? 次に会った時、使えば」
シキに言われ、トリネは一枚ずつ表を見た。抜きたい札が二枚あったが、代わりを探すと別の箱を開けなければならなかった。
「次、いつになるんだろ」
「そっちはまだ決まってないけど」
話している間に、アオイから協力ゲームの招待が出た。
「今すぐなら、こっちできる」
「この一回でラストね。終わったら作業へ戻る」
シキが言いながら招待を押した。コンフィは少し待ってと声をかけ、手を拭いてから入ってくる。
トリネもケースの蓋を閉めた。擦れた角が引っかかり、そこだけ親指で押し込む。いつもそうしていたことを、手の方が覚えていた。
三つの箱の外へ置き、最後の招待を押した。
*

何度目かの結果画面で、シキが時計を見た。
「次でラスト」
トリネは足元の束へ手を伸ばしかけた。もう次の準備完了が二つ点いていたので、いったんやめた。
その次の結果画面でも、シキは時計を見た。
「本当に次でラスト」
「ラス一、今ので三回目だよ」
アオイが数えた。コンフィは結果を見ながら、乾いた食器を棚へ戻していた。声が少し遠い。
「今回は『本当に』が付いたから」
「じゃあ、本当の方やろう」
そう言ったアオイの準備完了は、もう点いていた。
トリネは椅子に座り直した。動かした足が「出す」の箱に当たり、軽い音を立てた。
*

日付が変わる頃、コンフィが小さくあくびをした。
「もう寝るわ。明日もあるし」
トリネは床を見た。出す方を一箱分増やすつもりだったのに、始めた時より少なくなっていた。
「減ってるんだけど」
「一組、戻したからねえ」
アオイに言われ、箱の外のケースを拾った。まだ決めていなかったが、今さら「出す」へ戻す気にもならなかった。
「次に会った時用」
「うん。それまで持ってて」
トリネは「残す」の箱の、一番上へ置いた。蓋は開けておいた。
シキが通話越しに箱を見る。
「整理の続きは?」
「また誰かいる夜でよくない?」
コンフィが答えた。
「それ、いつでもじゃん」
トリネが言うと、コンフィは短く笑った。
「そうだよ」
退出音が鳴った。
一分もしないうちに、アオイが別のゲームの画像を二つ並べてロビーへ貼った。
《これ、右と左どっち》
通話から消えたコンフィの名前で、新しい吹き出しが増えた。
《左》

