MAIN STORY / EP-P29 / 社会人期 / 5 MIN READ

よるのつづき

社会人期作業通話の開始から日付が変わる頃までトリネ・シキ・コンフィ・アオイ

使わなくなったカードを一箱分出したい夜。トリネが作業通話を始めると、シキは真っ先に、保留へ移すだけでは片付いた数に入れないと言った。

ILLUSTRATION LOADING三つの仕分け箱を映して四人の作業通話を始めるトリネ

平日の夜、トリネは床へ三つの浅い箱を並べた。

「残す」「出す」「保留」。使わなくなった紙のカードを分けるために、前から用意していた箱だった。その周りにも古いケースや輪ゴムで留めた束があり、いちばん大きくなっているのは「保留」だった。

《やること溜まってきたから、作業通話募集》

送ってからカメラを床へ向けると、最初に入ったシキが箱を読んだ。

「今日はどこまで?」

「『出す』を一箱分」

「保留へ移すのは、終わった数に入れないよ」

トリネは伸ばしかけた手を止めた。今持っている束は、あとでまとめて見るつもりだった。

「まだ何もしてないのに対策された」

水音と一緒にコンフィが入ってきた。

「もう始まってる? こっちは皿一枚洗った」

「一枚でも進んでてえらい。私は今止まった」

最後にアオイの参加音が鳴った。画面を見ているらしく、少ししてから聞く。

「何するの」

「各自、作業。アオイは話し相手でもいいよ」

「じゃあ、それやる」

アオイのところからは、何かを始める音も、片付ける音もしなかった。

*

ILLUSTRATION LOADING三箱の外へ次に会う時用の一組を残す

トリネは「出す」の箱から、角の白くなったデッキケースを引き上げた。

「これも入れてたんだ」

蓋を開けると、一組そのまま残っていた。アオイが画面へ顔を寄せる。

「それ、前使ってたやつ?」

「そう。まだ混ぜた順番のまま」

「四人で紙やったの、最後いつだっけ」

コンフィの水音が止まった。

トリネも札を見たまま考えた。今週はもう一度オンラインで遊んでいる。それより前にも通話した。机へ四人分の札を並べた日だけ、すぐには出てこなかった。

「それは残しといてもいいんじゃない? 次に会った時、使えば」

シキに言われ、トリネは一枚ずつ表を見た。抜きたい札が二枚あったが、代わりを探すと別の箱を開けなければならなかった。

「次、いつになるんだろ」

「そっちはまだ決まってないけど」

話している間に、アオイから協力ゲームの招待が出た。

「今すぐなら、こっちできる」

「この一回でラストね。終わったら作業へ戻る」

シキが言いながら招待を押した。コンフィは少し待ってと声をかけ、手を拭いてから入ってくる。

トリネもケースの蓋を閉めた。擦れた角が引っかかり、そこだけ親指で押し込む。いつもそうしていたことを、手の方が覚えていた。

三つの箱の外へ置き、最後の招待を押した。

*

ILLUSTRATION LOADING何度目かのラストを宣言しながら全員が次のゲームを始める

何度目かの結果画面で、シキが時計を見た。

「次でラスト」

トリネは足元の束へ手を伸ばしかけた。もう次の準備完了が二つ点いていたので、いったんやめた。

その次の結果画面でも、シキは時計を見た。

「本当に次でラスト」

「ラス一、今ので三回目だよ」

アオイが数えた。コンフィは結果を見ながら、乾いた食器を棚へ戻していた。声が少し遠い。

「今回は『本当に』が付いたから」

「じゃあ、本当の方やろう」

そう言ったアオイの準備完了は、もう点いていた。

トリネは椅子に座り直した。動かした足が「出す」の箱に当たり、軽い音を立てた。

*

ILLUSTRATION LOADING残す箱へ一組を戻し次の誰かがいる夜へ続きを残す

日付が変わる頃、コンフィが小さくあくびをした。

「もう寝るわ。明日もあるし」

トリネは床を見た。出す方を一箱分増やすつもりだったのに、始めた時より少なくなっていた。

「減ってるんだけど」

「一組、戻したからねえ」

アオイに言われ、箱の外のケースを拾った。まだ決めていなかったが、今さら「出す」へ戻す気にもならなかった。

「次に会った時用」

「うん。それまで持ってて」

トリネは「残す」の箱の、一番上へ置いた。蓋は開けておいた。

シキが通話越しに箱を見る。

「整理の続きは?」

「また誰かいる夜でよくない?」

コンフィが答えた。

「それ、いつでもじゃん」

トリネが言うと、コンフィは短く笑った。

「そうだよ」

退出音が鳴った。

一分もしないうちに、アオイが別のゲームの画像を二つ並べてロビーへ貼った。

《これ、右と左どっち》

通話から消えたコンフィの名前で、新しい吹き出しが増えた。

《左》

了