01一枚の画像
秋、トリネから白い通信塔の画像が届いた。
海沿いの岬に立っている。次の日曜だけ、下の設備棟が一般公開されるらしい。
《これ見たい。藍帆崎。塔だけでいい》
コンフィは地図を開いた。塔を見るだけでも、帰る頃には午後になる距離だった。それなら、と周囲を調べ始める。
十分後に送り返した予定は、朝から夕方まで埋まっていた。
《一個が一日になってる》
《往復が長いから。お昼はこの辺で、資料室も近いし》
《最後の喫茶室は?》
《海が見える。あと柑橘タルトがある》
しばらくして、トリネから《まあ行く》と来た。
12塔だけ
駅で声をかけられた時、コンフィはタルトの写真を開いていた。顔を上げるより先に画面を切り替えた。まだ塔へも着いていないのに、帰りに食べるものばかり見ていた。
電車とバスを乗り継いで、日曜の朝の通信塔に着いた。
設備棟へ入ると、トリネは古い端子の前で止まった。隣に新しい装置があるのに、古い方にも線がつながっている。
「これ、まだ使ってる?」
先へ行きかけたコンフィも戻り、説明板を一緒に読んだ。一部は予備として残してあるらしい。
トリネはしゃがみ、太いケーブルを目で追った。奥で束にまとまるところまで見てから立ち上がり、入口でもらった紙の図にも同じ場所を探した。
外へ出るまで、二十二分だった。

「満足。時間だけ短い」
トリネがもう一度塔を見上げる。コンフィは時刻を見て、スマートフォンを持ち直した。
「では、残りが増えました」
画面の端に、またタルトが出ていた。
「塔だけでいいって言ったよね」
「それはもう終わったじゃん」
コンフィが坂を下り始めると、少し遅れてトリネもついてきた。
27午後が育つ
港の店では、魚を挟んだ平たいパンを買った。
ベンチへ座ってかじると、包み紙の下へ熱い汁が染みてきた。コンフィが慌てて紙を折り返す横で、トリネは包みを皿のように広げ、顔の方を近づけて食べていた。

「昨日、店三つ送ってきたけど、ここが一位?」
「暫定一位。まだここしか食べてないから」
「全部試す気だった?」
コンフィは残りのパンを見た。もう一個なら入りそうだが、あとでタルトがある。
「今日はここでいいかな」
その後に寄った資料室では、トリネが古い通信盤を見つけた。十分のつもりが三十分になったが、コンフィも途中から隣へ並んで、使い方の図を読んだ。手で線をつなぎ替えるところを、二人で指して確かめた。
売店で炭酸水を二本買う時、コンフィはまた喫茶室のページを開いた。タルトの写真を少し大きくしてから、会計に呼ばれてスマートフォンをしまう。
軒下のベンチへ腰を下ろすと、日陰の風が気持ちよかった。
「休憩も予定?」
トリネに一本渡し、コンフィも蓋を開ける。
「今、入れた。ここで次のバスまで待とう」
41二つの候補
午後、行き先が二つ残った。
山側には古い設備の土台、海側には喫茶室。時刻表を見直すと、両方へ行くには最後の方が慌ただしかった。
コンフィは山側の散策マップを上へ出した。
「古い設備を残そうか。そっちの方が見たいでしょ」
トリネは二枚を見比べ、下になった海側の地図を抜いた。
「こっちでいい」
「いいの? 土台とか好きじゃん」
「塔は見たし。コンフィ、朝からそのタルト三回見てる」
写真を押さえていたコンフィの指が止まった。
「二回じゃない?」
「駅、塔のあと、さっき」
「数えられてた」

コンフィは山側の地図を畳んだ。海側へ行くバスが来たので、今度はそちらだけを持って立ち上がった。
55夕方の窓
喫茶室の窓は、端から端まで海だった。
運ばれてきた柑橘タルトを見て、コンフィはスマートフォンを皿の横へ置いた。
「写真、皿が小さかったんだ」
画面の中では、まだタルトが大きい。
トリネが自分の塩キャラメルの焼き菓子にフォークを入れた。
「半分いる?」
「いる。タルトも半分」
交換を済ませると、コンフィはスマートフォンを裏返した。フォークを入れたタルトの生地が、ぱりっと割れた。上の柑橘と一緒に食べ、皿へ落ちた欠片も拾う。
次は塩キャラメルの方を少し切った。トリネもタルトを食べていて、しばらく皿に触れるフォークの音だけがした。
「まだ見える」
トリネが窓の向こうを指した。コンフィは口を動かしながら、白い塔を探した。


