MAIN STORY / EP-P21 / 社会人期 / 8 MIN READ

一個だけの遠征

社会人期日曜朝から夕方トリネ・コンフィ

海沿いの通信塔を、一個だけ見に行きたい。トリネが画像を送ると、コンフィからは朝から夕方までの予定と、柑橘タルトの写真が返ってきた。

ILLUSTRATION LOADING別々の部屋でチャットする二人。トリネは椅子で返信を読み、白いコートのコンフィは机で遠征の予定を広げる

01一枚の画像

秋、トリネから白い通信塔の画像が届いた。

海沿いの岬に立っている。次の日曜だけ、下の設備棟が一般公開されるらしい。

《これ見たい。藍帆崎。塔だけでいい》

コンフィは地図を開いた。塔を見るだけでも、帰る頃には午後になる距離だった。それなら、と周囲を調べ始める。

十分後に送り返した予定は、朝から夕方まで埋まっていた。

《一個が一日になってる》

《往復が長いから。お昼はこの辺で、資料室も近いし》

《最後の喫茶室は?》

《海が見える。あと柑橘タルトがある》

しばらくして、トリネから《まあ行く》と来た。

12塔だけ

駅で声をかけられた時、コンフィはタルトの写真を開いていた。顔を上げるより先に画面を切り替えた。まだ塔へも着いていないのに、帰りに食べるものばかり見ていた。

電車とバスを乗り継いで、日曜の朝の通信塔に着いた。

設備棟へ入ると、トリネは古い端子の前で止まった。隣に新しい装置があるのに、古い方にも線がつながっている。

「これ、まだ使ってる?」

先へ行きかけたコンフィも戻り、説明板を一緒に読んだ。一部は予備として残してあるらしい。

トリネはしゃがみ、太いケーブルを目で追った。奥で束にまとまるところまで見てから立ち上がり、入口でもらった紙の図にも同じ場所を探した。

外へ出るまで、二十二分だった。

ILLUSTRATION LOADING通信塔を見上げるトリネを残し、白いロングコートのコンフィが海へ続く坂を下り始める

「満足。時間だけ短い」

トリネがもう一度塔を見上げる。コンフィは時刻を見て、スマートフォンを持ち直した。

「では、残りが増えました」

画面の端に、またタルトが出ていた。

「塔だけでいいって言ったよね」

「それはもう終わったじゃん」

コンフィが坂を下り始めると、少し遅れてトリネもついてきた。

27午後が育つ

港の店では、魚を挟んだ平たいパンを買った。

ベンチへ座ってかじると、包み紙の下へ熱い汁が染みてきた。コンフィが慌てて紙を折り返す横で、トリネは包みを皿のように広げ、顔の方を近づけて食べていた。

ILLUSTRATION LOADING港のベンチで魚を挟んだパンを食べる二人。コンフィは包み紙を折り返し、トリネは紙を広げて顔を近づける

「昨日、店三つ送ってきたけど、ここが一位?」

「暫定一位。まだここしか食べてないから」

「全部試す気だった?」

コンフィは残りのパンを見た。もう一個なら入りそうだが、あとでタルトがある。

「今日はここでいいかな」

その後に寄った資料室では、トリネが古い通信盤を見つけた。十分のつもりが三十分になったが、コンフィも途中から隣へ並んで、使い方の図を読んだ。手で線をつなぎ替えるところを、二人で指して確かめた。

売店で炭酸水を二本買う時、コンフィはまた喫茶室のページを開いた。タルトの写真を少し大きくしてから、会計に呼ばれてスマートフォンをしまう。

軒下のベンチへ腰を下ろすと、日陰の風が気持ちよかった。

「休憩も予定?」

トリネに一本渡し、コンフィも蓋を開ける。

「今、入れた。ここで次のバスまで待とう」

41二つの候補

午後、行き先が二つ残った。

山側には古い設備の土台、海側には喫茶室。時刻表を見直すと、両方へ行くには最後の方が慌ただしかった。

コンフィは山側の散策マップを上へ出した。

「古い設備を残そうか。そっちの方が見たいでしょ」

トリネは二枚を見比べ、下になった海側の地図を抜いた。

「こっちでいい」

「いいの? 土台とか好きじゃん」

「塔は見たし。コンフィ、朝からそのタルト三回見てる」

写真を押さえていたコンフィの指が止まった。

「二回じゃない?」

「駅、塔のあと、さっき」

「数えられてた」

ILLUSTRATION LOADINGバス停で海側の地図を選ぶトリネと、タルトへの視線に気づかれていたコンフィ

コンフィは山側の地図を畳んだ。海側へ行くバスが来たので、今度はそちらだけを持って立ち上がった。

55夕方の窓

喫茶室の窓は、端から端まで海だった。

運ばれてきた柑橘タルトを見て、コンフィはスマートフォンを皿の横へ置いた。

「写真、皿が小さかったんだ」

画面の中では、まだタルトが大きい。

トリネが自分の塩キャラメルの焼き菓子にフォークを入れた。

「半分いる?」

「いる。タルトも半分」

交換を済ませると、コンフィはスマートフォンを裏返した。フォークを入れたタルトの生地が、ぱりっと割れた。上の柑橘と一緒に食べ、皿へ落ちた欠片も拾う。

次は塩キャラメルの方を少し切った。トリネもタルトを食べていて、しばらく皿に触れるフォークの音だけがした。

「まだ見える」

トリネが窓の向こうを指した。コンフィは口を動かしながら、白い塔を探した。

ILLUSTRATION LOADING菓子を半分ずつ交換した喫茶室で、トリネが窓の向こうの白い塔を指し、コンフィがフォークを持って振り向く
了