01北口
土曜の夕方、駅の北口へ着いたシキは、コンフィに連絡した。
《着いた。改札の外》
《え、明日じゃない?》
シキは鞄を見下ろした。展示会の券が二枚、充電器、折り畳み傘。出る前に確かめたものは全部入っている。
《今日は土曜》
《うん。展示会は日曜》
《それは分かってる。今日の夕方から会う話だと思ってた》
そこまで打って、二人のチャットを上へ戻した。
《週末なら空いてる》に《日曜の展示を見る》と返したのは、シキ自身だった。続く《前でもいい》を前日のことだと思い、少し下にあった《夕方くらい》とつなげて読んでいた。そちらの夕方は、コンフィが買い物に出る時刻だった。
「なるほど」
改札から出てきた人が、シキの横を通り過ぎた。
《買い物の時間までつなげて読んだ。私はもう北口》
《いや、開場前でもいいって意味だった。そんな早い前じゃなくて》
少しして、もう一通来た。
《今近くにいるから、ご飯行こ。十五分でそっち行く》
シキは帰りの電車の時刻を見た。今帰れば、十五分後にもまだ電車の中だった。
《待つ》
19日付

コンフィは本当に十五分で来た。買い物袋を持つ手を上げ、シキの顔を見たところで笑った。
「前日入りだったとは思わなかったな」
「私も、そう呼ぶほどのことだとは思ってなかった」
シキは鞄から入場券を出した。明日の日付が大きく印刷されている。
「展示会が明日なのは合ってる」
「そこは疑ってないよ。じゃあ、なんで今日いるんだろうってだけで」
シキも少し笑い、券を戻した。コンフィの買い物袋を片側からのぞく。思ったよりいろいろ入っていた。
「もう買い物、終わった?」
「だいたい。あとは食べて帰るだけ」
「そこからなら合流できる」
二人で駅前の通りへ出た。ラーメン店の灯りが見えたので、まず列の長さを確かめに行くことになった。
31夕食

並んでいるのは三人だけだった。
「今日の移動よりは短く済みそうだね」
コンフィが最後尾につき、入口のメニューを見上げた。
「その比較、私が悪いみたいになるんだけど」
「誰が悪いかは保留。文章が悪い」
「文章を書いたの、二人だよ」
コンフィはメニューを見るふりをした。シキが隣で笑うと、結局こちらも笑ってしまった。
カウンターへ案内され、二人は別の味を頼んだ。待つ間に、コンフィが買い物袋から小さな焼き菓子の包みを二つ出した。
「これ、明日の待ち時間にと思って買ったんだ。片方どうぞ」
シキは受け取り、開け口へ指を掛けたところで止まった。
「明日の分だった」
「食べてもいいけど、明日また待つよ」
シキは少し考え、入場券と同じところへしまった。
ラーメンの湯気が上がると、コンフィはさっそく一口すすった。熱かったらしく、顔を上げて短く息を吸う。シキが水を寄せてやると、片手を上げて礼をし、また麺を持ち上げた。
今度は少し冷ましていた。
シキも箸を割った。明日どの展示から見るかは、食べ終わるまで話に出なかった。
48二度目の約束
駅へ戻る途中で、シキはスマートフォンを出した。
「明日は十時。北口。今日は解散」
「おけ。今度こそ明日」
「日付は日曜」
「そこまで言う?」
「言う」
二人のチャットにも、日曜の十時と送っておいた。コンフィが隣でそれを読み、丸の反応をつけた。
改札を抜けて別々のホームへ向かう。コンフィは階段の途中で振り返り、もう一度手を上げた。
日曜の九時五十五分、コンフィは昨日と同じ案内板の前にいた。

紙カップを二つ持ち、シキが来ると片方を差し出した。もう片方の手がふさがったままなので、時計は口で伝えてくる。
「日曜、九時五十五分。北口」
「たしかに。今日は全部合ってる」
「昨日の分、五分早くした」
「一日ずれは五分で相殺できないよ」
そう言いながら、シキは温かいカップを受け取った。
64会場へ
会場まで歩く間に、コンフィが展示の案内を開いた。昨日ラーメンを待っている間に見ればよかったものだった。最初に見たい二つだけ決め、あとは中で考えることにした。
着くと、入口にはもう列ができていた。飲み終えたカップを捨て、二人で最後尾へ並ぶ。
シキが入場券を取り出した時、焼き菓子も一緒についてきた。今度はそのまま、開け口をつまんだ。
隣でも、同じ包みを開ける音がした。

