01古い部屋
春の夕食時、シキの画面に「夜間潜入班」から通知が来た。
そんな名前にしたのだった、と思い出す。以前、四人で協力型の射撃ゲームを遊ぶために作ったチャットだった。説明欄には今も「四人推奨・通話必須」とある。最後に潜入した日を思い出す前に、アオイの投稿が見えた。
《ミラモン、一戦だけできる?》
シキはスプーンを置いた。
《できる。二十二時までなら》
《その部屋まだあったんだ》
コンフィが返し、帰りの電車にいるトリネも、結果だけなら見ると送ってきた。
《上にあったから》
アオイが言う。シキの画面では、ずっと下に埋もれていた部屋が一番上へ来ていた。
11一度目

通話へ入る時、シキは射撃ゲームを開きかけた。
「違った。ミラモンだったね」
「こっちはもう待ってる」
アオイの声を聞き、開きかけたものを閉じる。コンフィも通話へ入り、二人の対戦を見始めた。
一戦終えて、トリネへ結果を送る。そのついでにシキは部屋の設定を開いた。
[部屋名が「ミラモン構築室」に変更されました]
「名前も合わせておいた」
「構築してない」
アオイが言った。
「さっき二枚替えてたよね」
「戻した」
シキは設定を閉じずに待ったが、アオイはそれきり何も言わなかった。チャットではトリネが《開始三分で用途終了してるじゃん》と笑っていた。
「ミラモンは合ってる。そこ残そ」
コンフィが助けてくれたので、最後の三文字を直した。
[部屋名が「ミラモン対戦室」に変更されました]
シキはようやくスプーンを取り、冷めかけた夕食を食べ始めた。
28翌日の募集

翌日の「ミラモン対戦室」には、コンフィから店の地図が二枚届いた。
《今夜十分だけ通話できる? 土曜どっち行くか決めたい》
シキが通話を開くと、コンフィがすぐに入り、トリネも帰宅してから加わった。アオイは音声を切ったまま、店の写真に反応だけをつけていた。
「こっちなら駅から近い。もう一軒は歩くけど、甘いものが多い」
コンフィが写真を切り替える。
「じゃあ近い方にして、甘いのは食後でいいんじゃない?」
トリネが言うと、コンフィは二枚とも残した。
「そうだね。二軒行くことにしよ」
「いや、食べてから考える。まだ一軒」
コンフィが二枚目へ書きかけた時刻を消す。シキも頷いてから、部屋の設定を開いた。
[部屋名が「予定相談室」に変更されました]
通話がまだ切れないうちに、トリネが投稿した。
《明日の夜、協力ゲームやる人》
「もうちょっと待ってほしかった」
シキは名前の入力欄を見たまま言った。
「明日の夜まで?」
「名前変えたとこだったから」
「予定の相談ではあるじゃん」
それなら合っている気もした。シキはいったん設定を閉じた。
48候補

その後は、ゲームの募集も買うか迷っている物の写真も、同じ部屋に来るようになった。
部屋名はもう見られていないのかもしれない。それでも、変え始めたシキだけは気になった。最初の「夜間潜入班」で済んでいた頃へ戻すのも、なんだか悔しかった。
《もう名前変えたくない。全部できる名前にしたい》
トリネから《総合窓口》と来た。
《役所》
アオイが返す。
《遊ぶ前から受付で疲れそうなんだけど》
コンフィの一行を見て、シキは打ちかけた「共用室」を消した。「集合場所」も入れてみたが、何か決めてから集まる場所のような気がした。
アオイから、もう一語届く。
《ロビー》
《来てから決めるとこ》
シキは入力欄を空にした。そこへ三文字だけ打って、四人へ送る。
[部屋名が「ロビー」に変更されました]
コンフィが丸の反応をつけ、トリネもその丸を押した。
63接続中

その夜、遅い夕食を机へ運ぶと、アオイから《いる人》と来ていた。
シキが通話を開いた時には、コンフィがもういた。トリネも数分後に加わったが、誰からもゲームの画面や店の地図は出てこなかった。
「で、今日は何する?」
シキが聞くと、アオイは少し考えた。
「べつに。人いるかなあって」
「いるけど。四人」
トリネの声に、アオイが短く笑った。そのまま菓子の袋を開ける音がしたので、シキもスープを一口飲んだ。
「アオイ、それ何味?」
コンフィが聞く。
「白いやつ」
「色しか分からないじゃん」
トリネに言われ、袋がまた鳴った。アオイは食べて確かめているらしかった。
「味も白っぽい」
「情報が減ったね」
シキは笑い、脇に残っていた設定画面を閉じた。コンフィの湯が沸き、トリネの椅子が鳴る。誰かが話すまで、スープを飲んでいてもよかった。

