MAIN STORY / EP-P32 / 移行期 / 5 MIN READ

午後は空いて、夜だけ揃う

移行期予定外に空いた午後の相談から、同日夜の四人接続までトリネ・シキ・コンフィ・アオイ

仕事と学校でばらばらだった四人の午後が、珍しく重なった。カードがなくてもお茶ならできる。コンフィは四つの現在地を見ながら、乗換案内を開く。

ILLUSTRATION LOADING予定より早く実験を終えた研究棟で鞄を確かめるコンフィ

実験を終えて研究棟の廊下へ出ると、窓の外がまだずいぶん明るかった。

修士課程も終わりが見えてきた頃だった。コンフィは白衣を鞄へ押し込み、ノートをその上へ載せた。畳み直すのは後でいい。歩きながら四人のチャットを開く。

《今日、珍しく午後空いた。どうする》

シキからすぐに返事が来た。

《午後休。次の用事まで一時間半くらいある》

続いてトリネが《私も半休。今会社出た》と送ってくる。コンフィが《まじか》と打っている間に、アオイも現れた。

《授業ない。とてもひま》

《全員いるじゃん》

建物の出口で立ち止まり、いったん開いた鞄を閉めた。

*

ILLUSTRATION LOADING昼の四つの場所で遊び道具のない鞄を確かめる四人

《駅前で何かする?》

コンフィが送ると、アオイから《どの駅前》と来た。

シキは用事の合間に寄った街にいて、トリネは会社の最寄り駅へ歩いていた。アオイの大学もコンフィの大学も、その近くではなかった。

《カードある人》

誰もなかった。コンフィも鞄を見たが、ついさっき自分で入れたノートと白衣しか見えない。

《四人いるのに、一組もない》

《人数だけあるねえ》

アオイの返事を読んで、コンフィは乗換案内を開いた。

《お茶なら手ぶらでできる。そっち行くとどれくらいだろ》

*

ILLUSTRATION LOADING帰路のコンフィが誰も座らない四人掛けの横を通る

シキのいる駅を入れると、到着まで一時間以上かかった。

途中の駅で調べ直せば、少しは早くなる。ただ、アオイが着く頃にはシキが次の用事へ出なければならなかった。コンフィは乗換を一つ減らし、もう一度時刻を見る。

《ここなら、十分くらい四人いる》

《改札で飲む?》

トリネの返事に、コンフィは声を出して笑った。三人へ紙カップを渡し終えた途端、シキがそれを持ってまた電車へ乗っていく。浮かんだ光景が忙しすぎた。

《お茶より移動が長すぎるか。今日は帰る》

《夜ならオンラインいける》

アオイの一行に、コンフィも返事をした。

駅へ向かう途中、建物の脇の休憩スペースが目に入った。四人掛けの机が空いていて、椅子が一つだけ引かれていた。

こんな近くに座れる場所はあるのに、と思ってから、コンフィは通り過ぎた。電車へ乗ってようやく、何か飲みたいと思っていたことを思い出した。

*

夜、トリネから一行届いた。

《一戦だけ。いる人》

ILLUSTRATION LOADING自室から通話につなぎ、友人の声を聞くコンフィ

コンフィが接続すると、もうアオイの声がした。シキもすぐに入ってきた。昼に送られてきた四つの駅名を思い出す間もなく、いつもの声が揃った。

「結局、お茶飲んだ?」

コンフィが聞くと、シキは「今飲んでる」と答えた。カップを置く音がする。

「私も。昼から同じやつ」

アオイの方からは、ペットボトルのつぶれる音がした。

コンフィは自分の机を見た。本とマウスしかない。

「あ、待って。私も取ってくる」

立ちかけたところで、トリネに呼ばれた。

「あとコンフィだけ。始められる?」

画面には三人の準備完了が点いていた。コンフィは椅子へ座り直す。

「始める。一戦終わったら取ってくる」

自分の名前の横も点いたので、今度はそちらを見ることにした。

了