大学四年の夏休み、四人は午後に駅前で会うことだけ決めていた。
トリネはかなり早く着いた。駅ビル三階の休憩スペースは涼しく、窓際の四人掛けも空いていた。ここで待てるなら悪くない。鞄から厚い本とノートを出す。
《着いた。何するの》
シキから最初の返事が来た。
《洗濯物干したら向かう》
《干すじゃない。取り込んだら》
コンフィは《今起きた》と送ってきた。アオイからは持ち物を聞かれたので、まだ何をするか決まっていないと返す。
《じゃあ何も持たない》
トリネはスマートフォンを本の横へ置いた。ほかの三席は空いたままだった。
*

コンフィの支度は、通知が来るたびに一つずつ進んだ。
《食べたら出る》
しばらくして、《着替え終わった。夕方前には行く》が来た。トリネは本へ指を挟んで、窓の外を見る。まだ明るい。夕方までには、かなりあった。
三分後に訂正が届いた。
《行くじゃない。着く》
トリネは《まだ家?》まで打って消した。さっき着替え終わったところなのは、もう知っている。
続いてシキから、洗濯物を取り込んだという報告が来た。
本の問題は一つ解けた。もう一つ始めようとノートを広げ、隣の席へ鞄を移しかける。やめて自分の足元へ置いた。
*

最初に現れたのはアオイだった。
スマートフォンだけを手に、向かいの椅子へ座った。本当に鞄もない。
「そこまで何も持ってこないとは思わなかった」
トリネが言うと、アオイは机の本をのぞいた。
「勉強するの?」
「待つ間だけ」
図の横には式が続いていた。アオイは少し読んでから体を戻し、腕を机へ重ねた。
「何するか決まったら起こして」
しばらくはトリネがページをめくるたびに目を開けていたが、そのうち開けなくなった。
*

コンフィは駅へ着いてから、もう一度だけ連絡してきた。
《近い。店だけ見てから行く》
見ただけでは済まなかったらしい。現れたコンフィの手には紙袋があり、中から細い揚げ菓子を詰めたカップが出てきた。
「食べてから来たんじゃなかった?」
「あれ朝ごはん。これは、まあ、おやつかな」
「もう夕方だけど」
「いや、起きた後の一食目っていう意味で。昼ではなかった」
コンフィは紙袋を広げ、アオイの前へ一本置いた。自分も一本抜いてから、トリネの本をのぞく。
「何することになった?」
「まだ」
「そっか。ここ涼しいね」
椅子を引き、トリネにもカップを寄せた。
*

最後にシキが来た。
片手の飲み物を置き、薄い鞄を椅子の背へ掛けようとしたところで、机に小さな音がした。持ち手に残っていた洗濯ばさみが転がった。
アオイが顔を上げた。
「決まった?」
「集まった」
シキは洗濯ばさみを拾い、一度自分の鞄を見た。もう何もついていないのを確かめ、今度こそ掛ける。
「じゃあ、決める?」
コンフィに言われ、トリネは顔を上げかけた。あと一行で今の問題が終わる。そこだけ先に書くことにした。
ボトルの蓋が開いた。アオイは目の前の揚げ菓子を取り、起きてすぐなのにもう食べていた。
最初の《何するの》には全員の既読がついていた。
答えは、まだ誰も送っていなかった。

