MAIN STORY / EP-P14 / 大学期前半 / 4 MIN READ

残り距離だけが増えていく

大学期週末市で待ち始めてから同日夕方の帰路までコンフィ・アオイ

待ち合わせまで、あと二・二キロ。自転車で川沿いを進むアオイから届く数字が、なぜか増えていく。橋で待つコンフィの手には、サイダーが二本ある。

ILLUSTRATION LOADING青い歩道橋で瓶入りサイダー二本を持って待つコンフィ

01青い歩道橋

大学二年の秋、コンフィは川沿いの週末市でサイダーを二本買った。

青い歩道橋の東詰まで戻り、瓶を片手ずつに持ち替える。冷たい水滴が指の間へ入り込んだ。アオイが着いたらまず一本渡して、上流側に並ぶ屋台を一周するつもりだった。

《自転車借りた。あと二・二》

駅前からの連絡に、コンフィは瓶を足元へ置いて返した。

《青い歩道橋ね。入口いる》

《うん。地図ある》

自転車のハンドルに固定した画面の写真まで来た。目的地の印は、コンフィが送った場所にちゃんとついていた。

橋の下から川下を見ると、オレンジ色の帯を巻いた給水塔が小さく見えた。そちらから来るのだろうと思い、コンフィは道の先へ目を向けた。

まだ瓶が冷たいうちに着きそうだった。

11川沿い

ILLUSTRATION LOADING目的地と反対方向へ自転車で進むアオイ

駅前の住宅地を抜けると、道が川沿いに左右へ分かれた。アオイは広くて走りやすそうな方へ曲がった。

川が右側に来た。正面にはオレンジ色の給水塔がある。道は平らで、こいだ分だけ進んだ。髪が背中から浮くくらい風もあり、電車を降りてから今がいちばん涼しかった。

低い橋をくぐって一度止まると、ハンドルの画面に二・八キロと出ていた。

《二・八になった》

《増えてない?》

アオイは一つ前に送った数字を見た。

《増えた》

《いや、残り距離に育つ要素ないんだけど》

地図を広げようとすると、自分の向きに合わせて画面がくるりと回った。アオイは前方の橋を見た。あそこを渡って戻れば、目的地の方へ行けるのかもしれない。

《次の橋、渡るんじゃないかな。そこまで行ってみる》

こぎ出すと、給水塔がまた大きくなった。

橋に着いて分かったのは、川沿いの道からは上がれないことだった。車だけが頭上を通っていく。アオイは下をくぐり、ベンチの脇へ自転車を止めた。

《三・五。こわ》

今度はスタンドまで下ろした。正面の給水塔を撮って、数字の下へ送る。

26オレンジの塔

ILLUSTRATION LOADING離れた二地点からオレンジの給水塔を見て通話するコンフィとアオイ

コンフィは写真を開き、自分の見ている給水塔と比べた。

こちらでは指で隠れる大きさなのに、アオイの写真ではオレンジ色の帯までくっきり見える。瓶を置いたまま、すぐに通話をかけた。

「待って。もう止まってる?」

「止まってる。橋、上がれなかった」

「川、今どっちにある?」

「右。塔が前」

「あ、逆。こっち来るなら川は左。塔は後ろだよ」

コンフィは川下を指さしかけ、自分の指先を見た。アオイには見えていない。

向こうでタイヤの擦れる音がした。

「左になった」

「そのまま来て。橋は渡らなくていい」

「おけ。塔、小さくしてくる」

通話が切れた。コンフィはサイダーを拾った。さっきまで持ち続けられないほど冷たかった瓶が、今は普通に持てた。

二本とも鞄へ入れ、川下へ歩き出す。橋のところに立っていても、アオイが戻ってくるのを待つだけだった。

41合流

ILLUSTRATION LOADINGサイダーを差し出すコンフィと、自転車を止めて受け取るアオイ

三・一、二・四、一・七。

数字が減るようになると、アオイは少し安心した。給水塔も、振り返るたびに小さくなっていた。

曲がり角の先に、淡い青の髪が見えた。コンフィが鞄を脇へ抱え、こちらへ歩いてくる。アオイは手を上げかけてハンドルへ戻し、ブレーキをかけた。

降りてから画面を見ると、まだ九百メートルあった。

「地図より先に来た」

「私が迎えに来たんだって。あと九百は橋まで」

コンフィは笑いながら一本差し出した。

「最初は冷えてたんだけどね」

アオイは瓶を受け取り、開けて飲んだ。炭酸が喉の奥で弾けて、一口では止まらなかった。

「うん。今ちょうどいい」

コンフィも自分の分を開ける。少しぬるかったが、歩いてきたら喉が渇いていた。

「パン、まだあるかな」

アオイは瓶をしまい、自転車を押し始めた。

「たぶん。大きいねじったやつがあった」

「それにする」

まだ屋台は見えないのに、昼食だけは決まった。

58帰り道

ねじりパンは残っていた。アオイがいちばん大きいものを選ぶと、コンフィも横から端を持ち、川辺のベンチで二つに分けた。

ちぎれたところから湯気が上がった。コンフィは先に外側の細い部分をかじり、アオイは真ん中を冷ましながら食べた。残りを袋へ戻し、その後で古本や焼き菓子の屋台を回った。

帰る頃には、川面が低い光を返していた。自転車を返す駅はコンフィも使うので、二人で来た時と同じ岸を歩いた。

アオイは乗らずに押していた。歩道橋のたもとでハンドルの画面を消し、川を一度見た。

「川、右でいいんだよね」

「今はね」

コンフィが残しておいたパンを割る間、自転車も止まって待っていた。

了