01青い歩道橋
大学二年の秋、コンフィは川沿いの週末市でサイダーを二本買った。
青い歩道橋の東詰まで戻り、瓶を片手ずつに持ち替える。冷たい水滴が指の間へ入り込んだ。アオイが着いたらまず一本渡して、上流側に並ぶ屋台を一周するつもりだった。
《自転車借りた。あと二・二》
駅前からの連絡に、コンフィは瓶を足元へ置いて返した。
《青い歩道橋ね。入口いる》
《うん。地図ある》
自転車のハンドルに固定した画面の写真まで来た。目的地の印は、コンフィが送った場所にちゃんとついていた。
橋の下から川下を見ると、オレンジ色の帯を巻いた給水塔が小さく見えた。そちらから来るのだろうと思い、コンフィは道の先へ目を向けた。
まだ瓶が冷たいうちに着きそうだった。
11川沿い

駅前の住宅地を抜けると、道が川沿いに左右へ分かれた。アオイは広くて走りやすそうな方へ曲がった。
川が右側に来た。正面にはオレンジ色の給水塔がある。道は平らで、こいだ分だけ進んだ。髪が背中から浮くくらい風もあり、電車を降りてから今がいちばん涼しかった。
低い橋をくぐって一度止まると、ハンドルの画面に二・八キロと出ていた。
《二・八になった》
《増えてない?》
アオイは一つ前に送った数字を見た。
《増えた》
《いや、残り距離に育つ要素ないんだけど》
地図を広げようとすると、自分の向きに合わせて画面がくるりと回った。アオイは前方の橋を見た。あそこを渡って戻れば、目的地の方へ行けるのかもしれない。
《次の橋、渡るんじゃないかな。そこまで行ってみる》
こぎ出すと、給水塔がまた大きくなった。
橋に着いて分かったのは、川沿いの道からは上がれないことだった。車だけが頭上を通っていく。アオイは下をくぐり、ベンチの脇へ自転車を止めた。
《三・五。こわ》
今度はスタンドまで下ろした。正面の給水塔を撮って、数字の下へ送る。
26オレンジの塔

コンフィは写真を開き、自分の見ている給水塔と比べた。
こちらでは指で隠れる大きさなのに、アオイの写真ではオレンジ色の帯までくっきり見える。瓶を置いたまま、すぐに通話をかけた。
「待って。もう止まってる?」
「止まってる。橋、上がれなかった」
「川、今どっちにある?」
「右。塔が前」
「あ、逆。こっち来るなら川は左。塔は後ろだよ」
コンフィは川下を指さしかけ、自分の指先を見た。アオイには見えていない。
向こうでタイヤの擦れる音がした。
「左になった」
「そのまま来て。橋は渡らなくていい」
「おけ。塔、小さくしてくる」
通話が切れた。コンフィはサイダーを拾った。さっきまで持ち続けられないほど冷たかった瓶が、今は普通に持てた。
二本とも鞄へ入れ、川下へ歩き出す。橋のところに立っていても、アオイが戻ってくるのを待つだけだった。
41合流

三・一、二・四、一・七。
数字が減るようになると、アオイは少し安心した。給水塔も、振り返るたびに小さくなっていた。
曲がり角の先に、淡い青の髪が見えた。コンフィが鞄を脇へ抱え、こちらへ歩いてくる。アオイは手を上げかけてハンドルへ戻し、ブレーキをかけた。
降りてから画面を見ると、まだ九百メートルあった。
「地図より先に来た」
「私が迎えに来たんだって。あと九百は橋まで」
コンフィは笑いながら一本差し出した。
「最初は冷えてたんだけどね」
アオイは瓶を受け取り、開けて飲んだ。炭酸が喉の奥で弾けて、一口では止まらなかった。
「うん。今ちょうどいい」
コンフィも自分の分を開ける。少しぬるかったが、歩いてきたら喉が渇いていた。
「パン、まだあるかな」
アオイは瓶をしまい、自転車を押し始めた。
「たぶん。大きいねじったやつがあった」
「それにする」
まだ屋台は見えないのに、昼食だけは決まった。
58帰り道
ねじりパンは残っていた。アオイがいちばん大きいものを選ぶと、コンフィも横から端を持ち、川辺のベンチで二つに分けた。
ちぎれたところから湯気が上がった。コンフィは先に外側の細い部分をかじり、アオイは真ん中を冷ましながら食べた。残りを袋へ戻し、その後で古本や焼き菓子の屋台を回った。
帰る頃には、川面が低い光を返していた。自転車を返す駅はコンフィも使うので、二人で来た時と同じ岸を歩いた。
アオイは乗らずに押していた。歩道橋のたもとでハンドルの画面を消し、川を一度見た。
「川、右でいいんだよね」
「今はね」
コンフィが残しておいたパンを割る間、自転車も止まって待っていた。

