MAIN STORY / EP-P31 / 大学期前半 / 5 MIN READ

やめようと言った人が先にいる

大学期雨天中止の提案から、現地で一戦を始めるまでトリネ・アオイ

雨を理由に今日の約束をやめようと言い出したトリネ。アオイは傘のないまま、使い慣れたデッキを鞄に入れて駅へ向かう。

ILLUSTRATION LOADING雨の校舎出口で新旧二つのデッキから旧デッキを選ぶアオイ

校舎を出ようとして、アオイは鞄の脇へ手を入れた。ないと分かっていて探す折り畳み傘は、やっぱりなかった。

大学へ分かれた年の秋。午後からトリネと会う約束をしていたが、屋根の向こうでは雨が細く降り続いていた。

《雨降ってるし、今日やめない?》

ちょうどトリネから届いた。

《私も傘ないけど行く》

《私の分も頑張って》

《何言ってるの》

アオイが返すと、少しして別の案が来た。

《新しいデッキ完成してるなら行く》

作りかけの札は、家の机に置いたままだった。昨日も足りない二枚を別の札で埋めてみたが、どちらもしっくりこなかった。

《まだ途中。前のなら持ってる》

今度は返事が来ない。アオイは鞄の口を閉め、雨が少し弱くなったところで屋根の下を出た。

*

乗換駅で、アオイは次の電車まで七分あるのを見て、スマートフォンを出した。

《もう向かってる?》

《着いた》

アオイは返事を二度読んだ。

《何してるの》

《暇だった》

アオイは返事を打ちかけて、雨で入った余計な一文字を消した。袖で拭こうとしたら、袖の方も濡れていた。

《じゃあ待ってて。まだ電車》

ILLUSTRATION LOADING電車内で中止提案者の先着を知るアオイ

トリネからは《いる》と来た。

*

ILLUSTRATION LOADING濡れた袖と冷めた紙カップで軒下に先着したトリネ

駅を出ると、トリネは商店街の入口にある深い軒下で待っていた。

髪の先と上着の袖が濡れている。紙カップを片手に、もう片方の手でスマートフォンを操作していた。アオイが最後の横断歩道を走って渡ると、顔を上げた。

「やめようって言った人が先にいる」

「途中で雨が弱かった」

「暇だったって来たよ」

「両方」

トリネはカップを傾けた。何も出てこなかったらしく、蓋を少し開けて中を見た。

「けっこう待った?」

「一杯分。行こう」

アオイも袖口を軽く絞った。水が一滴、靴の前へ落ちる。

二人は店先の屋根をたどって、商店街の奥へ歩いた。

*

ILLUSTRATION LOADING雨の見える対戦場所で旧デッキの一戦を始める二人

カード店の対戦スペースには、まだ空いた卓があった。アオイは椅子へ座り、鞄からデッキケースを出した。

トリネが蓋の色を見て、手を止める。

「前のやつ?」

「そう。新しい方、まだできてない」

「あ、そうなんだ」

「送ったよ。それ」

トリネはスマートフォンを開いた。アオイの《まだ途中》が、さっきのやり取りより少し上にあった。

「ここ読む前に出ちゃった」

「来る気だったじゃん」

トリネは画面を伏せ、自分のケースを出した。

「まあ、暇だったし」

「じゃあ、しばらくやれるねえ」

アオイが山札を切る。トリネは濡れた袖をまくってから、最初の手札を取った。

了