MAIN STORY / EP-P30 / 大学期前半 / 6 MIN READ

入らなくていい

大学期三人の喫茶店での近況共有から、四人の次回用デッキを準備する夜までトリネ・シキ・コンフィ・アオイ

別々の大学へ進んだ最初の春。シキは新しいサークルの副代表になり、活動案内の名前だけを隠して二人に見せる。

ILLUSTRATION LOADING会名だけを指で隠した活動案内を囲むトリネ、シキ、コンフィ

「サークル作って、副代表になった」

「作るところから?」

トリネがカップを置いた。別々の大学へ入って、まだひと月もたっていない。久しぶりに会ったシキは、鞄から活動案内を出して机へ広げた。

「いや、最初は見に行っただけ。古い建物とか、あちこち歩こうって。で、人数が少ないから手伝ってたら、ここに名前があって」

副代表の欄には、たしかにラムダ・シキと印刷されている。

「手伝いすぎたね」

コンフィに言われ、シキはうなずいた。紙の上の方は、親指で押さえたままだった。

「会の名前は?」

トリネが指の先をのぞき込む。

「投票で決まった」

シキは指をどけた。夕映え街歩き会。

「負けた」

*

ILLUSTRATION LOADING活動案内を折り終える前に加入を断るトリネ

案内の裏には、学園祭で開く喫茶室の準備が書き込まれていた。

「これも、コーヒー出せたらいいねって話してただけなのに、もう机を借りる話になってる。昨日、何台いるか聞かれた。私に」

コンフィは紙を裏返して、副代表の欄を指した。シキがまた裏へ戻す。

「知ってる」

「でも、飲み物はだいぶ考えてるじゃん」

トリネが横から読む。コーヒー、紅茶、その下にも小さな字で候補が続いていた。

「そこは楽しかったから」

シキは少し笑い、二重線で消した一つを爪でなぞった。試しに作ったら甘すぎたホットチョコレートだった。

「文句言いながら続けるんだ」

「しばらくはね。トリネ、入る?」

「入らない」

案内を二つに折ろうとしていたシキの手が止まった。まだ折り目の途中だった。

「まあそうだよね。入らなくていい」

残りをきちんと折って、ファイルへ戻す。トリネは自分のカップを引き寄せた。コンフィだけが、消されたホットチョコレートをもう一度見たそうにしていた。

*

ILLUSTRATION LOADING一台の地図へ自分に近い三地点を置く三人

シキがファイルを鞄へしまうと、トリネはそちらを見たまま聞いた。

「じゃあ、これから忙しい?」

「学園祭前はね。今は遊べる」

「次、どこでやる?」

コンフィがスマートフォンを机の真ん中へ置いた。今日は授業で来られなかったアオイも、次なら来られるかもしれない。

高校の時は、空いている教室を見つければよかった。今はシキが一つ印をつけると、トリネが別の駅を指し、コンフィがさらに地図を横へ動かした。

「待って。全員、自分ちの近くじゃん」

「トリネもね」

シキに指された印を、トリネは消さなかった。

三つとも見えるところまで地図を縮める。駅名が読みにくくなった。コンフィはそのまま一度画面を撮り、アオイへ送った。

《どこがいい?》

返事を待つ間に、トリネが空いたカップを店員へ渡した。

「もう一杯頼んでいい? 今日ここでやる分は持ってきた」

*

ILLUSTRATION LOADING新しい活動案内の横で旧友用デッキを準備するシキ

その夜、自分の部屋で、シキは机の下の引き出しを開けた。

高校で使っていた星律札戦のデッキケースが、奥に横倒しになっていた。取り出して蓋を開ける。新しい大学の人に貸せるように崩しかけて、結局そのままにしてあった一組だった。

机へ立て、写真を送った。

《やっぱり、これも一組用意しておく》

トリネからすぐに返事が来る。

《入らないけど》

《それとは別件》

コンフィが、昼に撮った地図をもう一度貼った。

《場所はまだ決まってないよ》

シキが返す前に、アオイから一行届いた。

《次は行ける》

シキはケースの蓋を閉めた。少し考え、また開ける。

今日トリネに使われた札を思い出して、一枚だけ入れ替えた。

了