「サークル作って、副代表になった」
「作るところから?」
トリネがカップを置いた。別々の大学へ入って、まだひと月もたっていない。久しぶりに会ったシキは、鞄から活動案内を出して机へ広げた。
「いや、最初は見に行っただけ。古い建物とか、あちこち歩こうって。で、人数が少ないから手伝ってたら、ここに名前があって」
副代表の欄には、たしかにラムダ・シキと印刷されている。
「手伝いすぎたね」
コンフィに言われ、シキはうなずいた。紙の上の方は、親指で押さえたままだった。
「会の名前は?」
トリネが指の先をのぞき込む。
「投票で決まった」
シキは指をどけた。夕映え街歩き会。
「負けた」
*

案内の裏には、学園祭で開く喫茶室の準備が書き込まれていた。
「これも、コーヒー出せたらいいねって話してただけなのに、もう机を借りる話になってる。昨日、何台いるか聞かれた。私に」
コンフィは紙を裏返して、副代表の欄を指した。シキがまた裏へ戻す。
「知ってる」
「でも、飲み物はだいぶ考えてるじゃん」
トリネが横から読む。コーヒー、紅茶、その下にも小さな字で候補が続いていた。
「そこは楽しかったから」
シキは少し笑い、二重線で消した一つを爪でなぞった。試しに作ったら甘すぎたホットチョコレートだった。
「文句言いながら続けるんだ」
「しばらくはね。トリネ、入る?」
「入らない」
案内を二つに折ろうとしていたシキの手が止まった。まだ折り目の途中だった。
「まあそうだよね。入らなくていい」
残りをきちんと折って、ファイルへ戻す。トリネは自分のカップを引き寄せた。コンフィだけが、消されたホットチョコレートをもう一度見たそうにしていた。
*

シキがファイルを鞄へしまうと、トリネはそちらを見たまま聞いた。
「じゃあ、これから忙しい?」
「学園祭前はね。今は遊べる」
「次、どこでやる?」
コンフィがスマートフォンを机の真ん中へ置いた。今日は授業で来られなかったアオイも、次なら来られるかもしれない。
高校の時は、空いている教室を見つければよかった。今はシキが一つ印をつけると、トリネが別の駅を指し、コンフィがさらに地図を横へ動かした。
「待って。全員、自分ちの近くじゃん」
「トリネもね」
シキに指された印を、トリネは消さなかった。
三つとも見えるところまで地図を縮める。駅名が読みにくくなった。コンフィはそのまま一度画面を撮り、アオイへ送った。
《どこがいい?》
返事を待つ間に、トリネが空いたカップを店員へ渡した。
「もう一杯頼んでいい? 今日ここでやる分は持ってきた」
*

その夜、自分の部屋で、シキは机の下の引き出しを開けた。
高校で使っていた星律札戦のデッキケースが、奥に横倒しになっていた。取り出して蓋を開ける。新しい大学の人に貸せるように崩しかけて、結局そのままにしてあった一組だった。
机へ立て、写真を送った。
《やっぱり、これも一組用意しておく》
トリネからすぐに返事が来る。
《入らないけど》
《それとは別件》
コンフィが、昼に撮った地図をもう一度貼った。
《場所はまだ決まってないよ》
シキが返す前に、アオイから一行届いた。
《次は行ける》
シキはケースの蓋を閉めた。少し考え、また開ける。
今日トリネに使われた札を思い出して、一枚だけ入れ替えた。

