《みんな、何時くらいにミツバ?》
卒業式が終わり、進学先へ通い始めるまでの春休み。アオイは四人のチャットへ送ってから、財布に硬貨があるか確かめた。
ミツバは学校の近くにあるゲームセンターだった。受験勉強の息抜きに入った四人が、『月環演武』を始めた店でもある。古い対戦台は、硬貨一枚で二回遊べる。
そのミツバが、今日で閉まる。
《一時にな》
シキから返事が来た。
《さ》
《は》
《誤字ひど》
アオイが送ると、今度は《飯はどうする?》と来た。一時の後ろは直らないまま、昼食の話になった。
そこへコンフィが《行けなくなった》と挟む。
《まじか》
アオイは時計を見て、ひとまず自分の出る支度を始めた。誰が何時にいるかは、着けば分かるだろう。
*

午後、シキがミツバへ着いた時には、奥の対戦台に人が集まっていた。
空いた席へ滑り込む。少し暗い四角い画面と、使い込まれた球形のレバー。手を置くと、細かな傷のあるところへ親指が当たった。
相手は強かった。負けて席を替わり、後ろで一戦見てから、もう一度座った。さっき見た攻めは覚えたはずなのに、いざ自分へ来ると間に合わなかった。
席を立つ理由だけは、相手がきれいに作ってくれた。
《ガチな人に負けまくった》
店の端で送ると、コンフィから返事が来た。
《最後の日に何してるの》
《最後だから確認した。勝てないこと》
シキは財布をしまい、出口まで歩いた。振り返ると、さっきの席にはもう次の人が座っていた。少し背伸びして、その人の最初の動きだけ見ていった。
*

アオイは昼に一度店を離れ、夕方に戻ってきた。
十人ほどに増えた客の肩越しに、対戦台が見えた。座っているのは、紫がかった長い髪の人だった。二戦見ても席を立たない。昼にいたシキの姿は、もうなかった。
《戻ってきたら十人くらいになってる。紫っぽい長い髪の人が強い》
《めちゃ行きたい》
シキはもう別の場所にいるらしい。アオイは列の後ろへ立ち、ポケットの硬貨をつまんだ。
この順番が来たら、あの人と一回。画面の中で大きく体力が減った。自分が座っても、あまり違うことにはならなそうだった。
《出る幕ないな》
硬貨を離し、列から抜ける。
《家でトレモが安定そう》
外へ出ると、まだ看板に明かりがついていた。アオイは上着のポケットへ手を戻した。握っていた硬貨だけが、少し温かかった。
*

日付が変わってから、アオイはミツバの写真を眺めていた。
昼の対戦台。壁際の古い椅子。最後まで残った人が撮った、シャッターの下りた入口。
さっき自分が出た時には、まだ開いていた。写真を一枚戻して、もう一度進めた。
《ミツバの写真見てたら、急に寂しくなってきた》
《なんかつらい》
しばらくして、コンフィが返した。
《そのままやめる人もいそう》
《全然行ってなかったけど、寂しいもんだね》
シキの返事の下には、少しの間、何も増えなかった。
アオイがまた写真へ戻りかけたところで、同じ名前から一行届いた。
《募集》
トリネの返事は早かった。
《いる》
*

二人はそれぞれの部屋で『月環演武』を起動した。
部屋を作ったシキが、対戦前の画面から動かなくなった。
《ボタン反応しない》
《設定では》
《消えてた。ちょっと待って》
トリネが練習画面で同じ技を出している間に、シキの接続が一度切れ、戻ってきた。
今度は動いた。一戦目は負けたが、シキは席を立たず、すぐに次を押した。さっき通らなかった攻めをもう一度試すと、今度は少しだけ当たった。
何戦目かの結果画面で、シキが送った。
《次ラスト》
その一戦は、トリネが取った。
《もう一本》
《ラスト終わったけど》
《勝ちたい》
《りょ》
シキは準備完了を押した。トリネの表示も、すぐに点いた。

